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大佐の異常な日常

大佐の異常な日常

無題 4

「ん・・・・・・」
麻義が目を開き、まず最初に見えたのは水道の蛇口だった。
「?」
何で蛇口?という疑問が頭に浮かぶと同時にその蛇口から大量の水が麻義の顔面に直撃した。
「ぶがぶっ!?」
「あ、気がついた?」
地上で溺れかけている麻義の視界の端に、ひょことシャムが顔を出した。
「いきなり何をするんですかっ!?」
麻義は珍しく大きめな声でシャムを咎めた。
しかしシャムは反省の色を見せるどころか、むっとした様子で口を尖らせている。
「だってアサギがいつまでたっても起きなかったんだよ?日が暮れても目、覚まさなかったから?」
「それは・・・・・・まぁ心配をかけましたね。でもいきなり水をかけるっていうのはどうなんでしょうか?」
「寝耳に水ってね?」
得意げな表情でシャムが言った。
「それはびっくりする事の諺で、人を起こす方法ではありません・・・・・・」
アサギがそう説明すると、シャムは心底驚いた様子で
「え?そうなの?」
と目をぱちくりとさせて言った。
麻義は、はぁとため息をついた。
「全く・・・・・・それで、此処は何処ですか?見たところ公園のようですが」
「うん?あそこにいつまでも居るわけにはいかないからね?とりあえずと思って此処に運んだんだ?」
「はぁ・・・・・・そうですか」
この小さな体でどうやって運んだのだろうという疑問も浮かんだが、とりあえず飲み込むことにした。
「わかりました。では、僕も起きましたし、移動しませんか?こんな夜中に一人で居たら怪しまれますし」
「・・・・・・立てるの?」
「いッ―――!」
立ち上がろうとして力を込めた腕に、鋭い痛みが走り抜けた。
体重をかけていたので体制を崩す。
「やっぱり無理だったね?いくら死神になって身体能力が上がったとはいえ、あの高さから受身も取らずに落ちたらそうなるね?」
シャムは説明するように言って、麻義の顔を覗き込む。
「ん~?大丈夫?」
「いえ・・・・・・」
「まだそんなに痛む?なら無理しないで寝てたほうがいいよ?」
「でも・・・・・・」
「麻義が言うほど人も来ないしね?まず移動できるくらいに痛みが引くまで待った方がいいよ?」
腕が痛み出して感覚が戻ったのか、足まで痛み始めてきた。確かにこの痛みでは歩くこともままならない。
「・・・・・・すみません。いきなりこんな事になってしまって」
「まぁアサギの事考えずに降りたのも悪かったしね?」
「すみませんが、少し休ませてもらいますね」
といっても今目覚めたばかりなので眠気は無い。麻義は少し思案すると、シャムに提案してみた。
「あの、シャム?」
「ん?」
「休めって言われても、今あんまり眠く無いので・・・・・・今後の方針について少し教えてくれませんか?」
麻義がそう言うと、シャムはきょとんとした顔で
「方針なんか決めてないよ?」
「そうなんですか?・・・・・・じゃあ死神について詳しく教えて下さいよ。それから方針は相談しましょう」
「説明って言ってもねー・・・・・・?」
何故かシャムは歯切れが悪い。麻義が訝しげに首をかしげると、バツの悪そうな顔で
「ボクもよくわからない・・・・・・んだよね?」
と言ってのけた。
「え?ちょ、えええぇぇ!?どういうことですか!?」
流石にこれには麻義も驚いた。
一人の頼れると思っていたパートナーは見事に期待を裏切ってくれた。
「どういうことって言われてもね?死神はまだ神様でもわからないところがあるからね?」
「それこそどういうことですか?死神は神様が創ったんじゃないんですか?」
驚きと落胆の混ざった顔で麻義がそう言うと、シャムは頬をぽりぽり掻きながら語り始めた。
「元々死神って言うのは偶然からできた生き物なんだよ?事故だか何だか知らないけど、既存の生き物とボク達神徒が融合して出来た生き物なんだ?」
「また随分と曖昧な説明ですね・・・・・・」
「だからよく知らないって言ったでしょ?」
シャムは、むぅと眉間にしわを寄せて「人の話を聞くべきだよ?」と口をへの字に歪めた。
「まだ続きがあるんだからね?・・・それでその新しい生き物に当然神様は困惑したんだ?ちょうど『歪み』の危険性に気が付いて、神徒を創った頃だったから余計だね?
新しく生まれた生き物・・・死神は、先ず何よりも先に近くの『歪み』に接触を図ったんだ?勿論神様は黙って見過ごすわけがないよ?でもね?どんな力を使ったかはわからないけど、その死神は神様が止める間もなく『歪み』に接触した」
シャムは握りこぶしを作り、その二つをくっつけて見せた。
「神様が止める間もなかった、って」
「うん?神様が何も出来なかった?世界の創造主の力を超える生き物が生まれた、って事で神様は恐怖したよ?
でもね?死神が接触した『歪み』はその場で跡形も無く消滅したんだ?その『歪み』が世界に及ぼしていた影響なんかも元通りになってね?」
シャムはくっつけていた拳を、ぱっと開いて、消えたという事を示すジェスチャ。
「その後、その死神は各地の『歪み』を消してるから発見報告されてるけど、確保は出来てないんだ?多分、今も何処かにいるんじゃないかな?」
「なら、その死神の方に『歪み』を片付けてもらえばいいんじゃないんですか?」
「それが一番楽なんだけどね?『歪み』の増殖スピードはその死神一人では間に合わないほどだからね?このままじゃまずいから、神様は賭けに出たんだ?」
「それが、僕みたいに人工的に作る死神ですか」
「アサギは六番目だけどね?神徒と完全に一体化させず、お互いの自己を保てるように、半分だけ魂を混ぜて創ったんだ?結果は、見事に成功だね?起源の死神には劣るものの、『歪み』に対抗できる力を持ったんだ?」
「六番目って随分少ないですね・・・・・・。力?具体的には?」
「適合する生き物があまりいないんだよ?力、というか能力だけど、その死神によって変わるんだよね?例えば、一番目に造られた死神は犬だったんだけどね?」
「犬!?死神になるのは人間だけじゃないんですか?」
「最初は実験みたいなものだったんだよ?そうしたら、思いのほか簡単に成功したから、その犬も死神の仲間入り?」
「そんな随分・・・・・・」
「大丈夫だよ?死神同士なら会話は出来るからね?あった事は無いけどね?」
「そういう問題では・・・・・・。ところでさっきから言っている『歪み』って」
麻義の言葉はそこまで言ったところで、突如出されたシャムの手に遮られた。
麻義がシャムを見てみると、つい先ほどまでの笑顔が消えていて、その表情は真剣極まりないものになっていた。
初めて見るシャムの真面目な表情に麻義は少し戸惑ったが、すぐに頭を切り替えて小声で尋ねた。
「ど、どうしたんですか?」
シャムは麻義のほうには振り返らず、声だけで答えた。
「誰か・・・・・・来たみたい?」
「え!?で、でもこの茂みでじっとしていればやり過ごせるんじゃ」
「あ、こんなところに居た」
麻義でもシャムでもない、第三者の声が夜の公園に響く。
「ッ!!」
麻義とシャムが驚いて振り返る。
そこに声の主はいた。
「え?シャム?」
そこに立ってこちらを見ているのは確かシャムと見間違えるほど姿かたちが似ていた。
上下共に白いスーツ。
ただ決定的に違うのは頭。
シャムは猫のような大きい耳があるが、そこに立っているのに生えているのは角だった。
よく見れば尻尾も違う。
純白の鱗に包まれていて、シャムのゆらゆらと揺れている尻尾よりどこか力強さを感じる。
尻尾とあわせて見ると、竜のような印象を受けた。
「む、失礼だな君。私はシャムではない」
冷静に返され、麻義は驚きどうすればいいのか、と言った顔でシャムを見る。
「キミは誰?」
シャムは怪訝そうに前に居るそれに聞いた。
「ふむ。聞かれたら答えるのが世の情けか」
竜のような角を持つそれはよくわからない事を言った。
麻義がまた対応に困っていると角の人の後ろの茂みが揺れた。
次は何だ?と麻義は身構える。
「ま、待て、ミシロ。速い。す、少しは老体を労わってくれ・・・・・・」
息も絶え絶えにそこから現れたのは。
犬だった。
月明かりに照らされて、きらきらと光る金色の長い毛を持つ大きな犬。
「アル、遅いよ」
角の人(?)がその犬に話しかけている。
「そんな事言ってもだな、体がもうついてこないのだ。・・・・・・歳は取りたくないものだな」
語りかけられた犬も、さも当然のように返答している。
「あのぉ・・・・・・」
目の前で親しげに会話を始めた彼らに、麻義は恐る恐る声をかけた。
「ああ、まだ今の質問に答えてなかったな」
「ん?ミシロ、彼らは?」
「ほら、さっき反応があっただろう?」
「成る程。では彼らが」
「うむ」
なにやら会話が始まった。
「あの・・・・・・」
麻義が再度恐る恐る話かける。
「ああ、すまない」
あると呼ばれた犬がすまなそうに頭を下げる。
「では先の質問に答えよう」
ミシロというらしき角の人は恭しくそういうと、
「ワタシは神徒、第一の死神、アルバート・ラクディスが半身、ミシロだ」
宣言するようによく通る声で言った。


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